2月最後の日曜日、暖かい陽気に誘われて定番の散策コースの「林試の森公園」～「目黒不動尊」へと足を延ばし、コロナ禍の沈んだ気分の転換を図りつつ運動も兼ね、早朝に出かけて来ました。

この時期は丁度、河津桜が満開で、家族やグループで桜を愛でたり撮影したりと、静かな雰囲気の中にも温かさが感じられる空間となっていました。

この公園には国内外の多くの樹木が見られ、商売柄見に来る事もあり、この日も興味の有る樹木をゆっくりと観察してみました。その中でも珍しい樹木を3種類紹介してみます。

「月桂樹」（ローレル、ローリエ）：（げっけいじゅ）クスノキ科
乾燥させた葉が香辛料として有名。用材としては濃茶色の堅い材、主に床柱材として流通するが、市場に出回る量は少ない。

月桂樹の葉の匂いは立木ではあまり匂いませんでしたが、数枚見つけた落ち葉にはローリエ特有の香りがかすかにしました。（立木の葉は採取しない様にしましょう）

月桂樹の冠がスポーツの勝者に贈られる事は良く知られていますが、これは次のギリシャ神話に基づいています。
「古代ギリシャ南部のアルカディアのラドン川の神の娘ダフネが、アポロの求愛から逃れるため、父に願って月桂樹に変えられた。悲嘆にくれたアポロはこの月桂樹の枝で冠を作り、詩や音楽の優れた者にこれを贈り、彼女をしのんだという。」

夏のオリンピックでも日本選手が月桂樹の冠を戴く光景が見てみたいものです。　　　

「オリーブ」　：　モクセイ科
オリーブオイルや食用果実として有名。用材としては淡褐色地に濃茶や黒色の不規則な模様がある。表面割れや捻じれが出やすく、両耳材として流通するが量は少ない。

オリーブは聖書にもよく登場します。創世記第8章の次の物語が有名です。
「ノアの洪水は百五十日間でようやくひきはじめ、箱舟はアララット山にとどまった。それから四十日たって、ノアは洪水が引いたか調べるため船の窓を開いて鳩を放った。鳩は夕方になって戻ってきたが、そのくちばしにオリーブの若葉をくわえていた。さらに七日たってノアは再び鳩を放ったが、鳩はもはや船に帰ってこなかった。彼は水が完全に引いた事を知って箱舟を出た。」　　※追記　一部省略してます。

タバコの「ピース」はオリーブの葉をくわえた鳩のデザインで知られています。（オリーブには平和の意味もある様です。）　　　

「菩提樹」　：　（ぼだいじゅ）シナノキ科

菩提樹と聞くと一般的には釈迦がその樹の下で覚（さとり）を得たと思い浮かぶ方が多いのではないかと思われますが、その樹とは全くの別物です。写真の菩提樹はシナノキ科で同属のセイヨウシナノキはリンデン・バウムとして広く知られています。

ドイツでは菩提樹は竜の棲む樹と伝えられています。有名な「ジークフリート伝説」（中世ドイツの叙事詩「ニーベルンゲンの歌」の主人公が伝説上の英雄ジークフリート）では、象徴的に登場します。
「菩提樹の下で竜を退治してニーベルンゲン族の宝を奪い取ったジークフリートは、結婚のもつれからブルゲント王の重臣ハーゲンに不死身であるその体の唯一の弱点をねらわれて、暗殺され宝を奪われてしまう・・・。」
ジークフリートはゲルマンの英雄として力の象徴であると共に悲劇のみなもとでもあったとされています。　　　

因みに釈迦がその樹の下で覚（さとり）を得たとされる菩提樹は「インドボダイジュ」：　イチジク属の熱帯常緑樹とされています。　　　

この様に、樹木にまつわる伝承や言い伝えなどを調べながら、その樹木を見て回るとあっという間に時間が過ぎて飽きる事がないです。
この他にも珍しい樹木や驚くほどの巨樹もあり、都会のオアシスといった趣に感じられ、地域住民には掛け替えのない公園だと思っています。

神話や伝承に登場する樹木を目の前にすると、遠い空想上の物語ではなく本当に存在したのではないかと思えてくるのは自分だけでしょうか。

※　参考文献　　
満久崇麿　著（1985）「続木のはなし」　　思文閣出版
満久崇麿　著（1987）「同名異木のはなし」　　思文閣出版
スザンネ・フィッシャー・リチィ著　手塚千史　訳（1992）「樹（バウム）」　あむすく