見抜けなかった事
先日、移動の途中でコブシ(辛夷)の白い花が咲いていたので、思わず写真に収めてみました。
コブシは千昌夫さんの「北国の春」にも歌われる早春を告げる花ですが、用材としても流通している事をご存知でしょうか。
「コブシ材」はモクレン科で同じモクレン科の「ホオ(朴)材」によく似ています。これが材木屋にとっては経験を問われる材と言いましょうか、ホオ材の中に混じって(混ぜられて)産地から送られる事があり、これを見分けられないと材木商として産地にナメられる事になります。(堅木を扱う材木商はコブシを「ホオガラ(朴柄)」と呼びます。)
材としての見た目の違いはほぼ無く、木目(夏目、冬目)の際立ち、赤身の色、心材・辺材の境目の具合などで区別しますが、実際に彫刻などで使われる方がその違いを実感されると思います。(コブシ材の方がホオ材よりもやや硬く彫りにくいと言われます。)
私もこの材はなかなか見分けが付かず、番頭さんなどによく注意されておりました。 最近はホオ材の流通量も減り昔の様に「ホオガラ」が「ホオ」として流通する事は無いと思いますが、懐かしく思い出しました。 *番頭=現場の上司
懐かしい思い出と言えば、先日、旧知の同業人との会話の中で、昔は木場内(新木場内)には特定の分野に秀でた有名人が居たという話になり、乾燥(人工乾燥)の神様と言われたH木材のⅯ氏や、丸太の見極めの達人と言われたO材木店のO氏など話に花が咲き、今はそんな人は見当たらないという結論になりましたが、本当に個性的な人が多かった様に思います。特に個人的に思い出すのは問屋時代のあるお客様です。
そのお客様は体格の良い年配の方で、問屋にはよく仕入れに見えるのですが、毎回材をあげつらう事しか言わず、常にしかめっ面であまり関わりたくないと感じておりました。幸いにも毎回、番頭さんが笑顔で応対されていましたが、自分にはとても真似出来ないと思ったものです。
ところが家業に入ってしばらくした頃、別の問屋でその方と鉢合わせし、退職と家業に入った事を緊張気味に挨拶すると、柔和な笑顔で「頑張れよ」と言われ拍子抜けした事を思い出します。その後も会う度に気にかけてもらいその方に対する認識は変わりましたが、思えば問屋での威圧的な態度はこの方の商売上の駆け引きの一種のテクニックであり、番頭さんもそれが分かった上での応対だったのだなと理解したものです。
材木も人も本質を見抜く事は、経験を積む事が大事なんだと気付かされた一件だった様に感じています。