この木なんの木?
古い在庫を整理していますと名前の分からない材が出てくる事があります。自分が仕入れた材は全て把握していますが、父や祖父が仕入れた材だと、たまに何の材か分からない材が出てきて悩む事があります。
材木を扱うプロである以上はお客様に「この木の名前は?」と聞かれれば答えられる様でなければと思いますが、実際には見たことの無い輸入材や、古くなって変色した材など判別が難しい場合があります。それでも持てる知識や、標本、図鑑などを参考に樹種名を突き止める努力はしております。(南洋材原木を大量に輸入していた頃には「M.L.H.」(Mix Light Hardwood 又は Miscellaneous Light Hardwood)と呼ばれる樹種名不明の材が ラワン類などと一緒に輸入され、一部流通していました。その頃の材が残っている事もあります。)
今回、古い在庫を整理中に、表題の写真の材が出てきたのですが、初めは何の材かよく分からずしばらく放っておいていました。しかし何の材か分からないと気持ちがスッキリせず、あらためて樹種名を突き止める事にしました。
サイズは 約1,600×500×75㎜ の両耳付き材(幅は中央寸検)で、非常に重い材です。色は薄い茶色の散孔材(広葉樹)で表面には干割れがあります。また削っても匂いはなく、古い材ですが反りや変形はほぼありません。
ここまでの情報である程度の候補が浮かびます。重さと表情から、国産材ならばカバ系の「アサダ・ザツカバ類」、または「タブノキ」、または木目のおとなしい「ケンポナシ」など。輸入材ならば「アカシア」「アサメラ(アフロルモシア)」「イロコ」「モンキーポッド」が候補に思い浮かびます。
もう少し情報を得るために標本や図鑑を参考にします。比重の大きい(重い)散孔材寄りの広葉樹、色はチークまたはウォルナットの様な茶色の材、匂いはしないなどを考慮します。この他にも数種類の資料(書籍や図鑑)を参考にし、導かれた結論は・・・よく判らないです。「モンキーポッド」かなとも思いましたが、赤身の色が薄い事、赤身/白太の境が不明瞭な事、若干重い気がするなど少し引っ掛かります。耳の状態から「アサダ・カバ類」の材の可能性もありますが、はっきりとは判りません。
もし、お客様に「この材は何という材ですか?何に向いてますか?」と聞かれたならば、こう答えようと思います。
「名前はハッキリとは判りません。「アサダ・カバ類」か、または「モンキーポッド」が近いかなと思いますが不勉強で申し訳ありません。ただ、狂いもなく強度も有り、小さいテーブルや作業台、ディスプレイ台にいかがでしょうか。干割れも有りますのでお安くいたします。」
「修行が足らん!」と父や祖父は、あの世から呆れて見ているかもしれないです。しばらくは、この材の名前を突き止めるまでは気が休まる事はないのだろうと思ってます。
*アサダ (浅田):カバノキ科 フローリング材や糸巻きには最適。家具にも利用されるが流通量は少ない。
*ザツカバ(雑樺):カバ類は種類が多く、大まかにマカバ(真樺)以外をまとめてザツカバと呼ぶ。
*タブノキ(椨) :クスノキ科 クスノキ(楠・樟)に似ていますが、匂いはない。
*アカシア :マメ科 (学名・アカシアマンギュウム) 日本ではフローリングとして利用される。
*アサメラ :マメ科 (別名・アフロルモシア) アフリカンチークとも呼ばれるがワシントン条約に登録。
*イロコ :クワ科 アフリカ材 チークの代替材として用いられる。
*モンキーポッド :マメ科 (別名・レインツリー) 心材は濃褐色~金褐色 大木になり幅広の一枚板も多く流通する。